幻影の城

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 『幻影の城―ネルヴァルの世界
 篠田知和基 思潮社 1972

つまり思想や解釈は問題ではないのだ。そこでは、作品、それも彫琢された密度の高い作品を重ねあわせて、そこで浮きあがってくる共通の構造を求め、偶然的なものを排除してゆく。そのような作業でいくつかのテーマについて書かれたものでは参考にすべきものもある。また一般的なテーマの操作のしかた、テクストの抽出のしかたについては、たとえばJ=P・リシャールの名前をあげてもよい。またさらに本質的な文学の読み方を教えてくれたものとしてバシュラールに負うところも大きい。しかし、〈城〉についてのテーマ分析では、いままで参考にし、明記しなければならないようなものは出ていない。 また、城の諸相として、カフカやグラッグのイメージも誘惑的だ。だがそれには抵抗しなければなるまい。ここでは、わたしとネルヴァルとの、孤独で排他的な愛、あるいは戦いの場をつくってゆく。(p10)