書物の図像学

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『書物の図像学』
 原克 三元社 1993

 ドイツ近代文献学の砦であるロマン派的図書館の隠喩は、文献学的引用をその根本理念とする種々の小説論的装置をともなって、ある種の間テキスト空間として体現してきた。その存在基盤は、自然の根源性であれ、愛であれ、ポエジーであれ、散文的で現実的なものへの対立項たることであった。それにたいして、同様に間-書物空間として体現しつつも、現実的なものとの対抗関係も、補完関係も削ぎ落として、引用された書物の網目のなかだけで、閉鎖的かつ密教的に円環運動しつづける幻想の図書館の系列が生成してきた。これらが隠喩として、それぞれ異なった形象力と意味の射程距離をもって、一点へとむかってゆく。すなわち、ベンヤミンが『一方通行路』で「今やあるゆる点から見て、書物というこの伝統的形態が最期をむかえつつあるように思われる」と評したあの地点へとむかってゆく。(p65)