古代史の鍵・対馬

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『古代史の鍵・対馬―日本と朝鮮を結ぶ島
 永留久恵 大和書房 1975

いまも島の旧家には、多くの古文書が残っている。それは宗氏から発給された御判物が、ながく大切に保存されてきたからで、なかには太宰府から出された文書もある。珍しいのは朝鮮国王の「告身」がある。告身というのは、朝鮮国の官職の辞令で、これによって年いくらかの禄米を給付された。海賊の頭目たちに対する李朝政府の懐柔策だといわれる。なかには朝鮮の漂流民を保護し、送還したことに対する感状として告身を受けたものもある。異国の王から官職を受け、禄を給される無節操を責めることは容易だが、当時の日本国中央政府は、辺地の民に対して何の施策をもなし得なかった時代なのである。窮乏と、戦乱による治安の崩壊が、辺境の民を海賊と化せしめた。そして倭寇に手を焼いた朝鮮(李朝)は、苦肉の策として「告身」を発給し、さらに宗氏と条約を締結したわけである。それにしても、このように形振かまわぬ対馬人の心の底には、朝鮮米への根深い執心があった。(p13)