高橋悠治|コレクション1970年代

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『高橋悠治|コレクション1970年代』
 高橋悠治 平凡社 2004

思想のためのことばの、いちばんたいせつな要素はリズムである。ことばのリズムは、日本語の五・七の拍や、ヨーロッパの詩の律や音韻のように単純な周期性の図式につくされるものではない。それは複合体としてのことばと思想の交点でバランスを測定する道具なのだ。リズムのよしあしは、ことばが記憶され、特定の文脈をはなれて引用され、誤解される度合いにかかっている。これらの条件をみたすことばは、アクセントのくりかえしをふくみ、デリケートで吹けばとぶようなものではなく、おもいがけない不調和で注意をとらえる。 思想が誤解されるのは、それが紙の上でおわるものでなく、現実に向かって踏みこんでゆくためにあるからだ。誤解されない思想は、ものの役にたたない。(p36)