フランス・ルネサンスの文明

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『フランス・ルネサンスの文明―人間と社会の基本像
 リュシアン・フェーヴル 二宮敬訳 創文社 昭56

 《ルネサンス》と《ユマニスム》と《宗教改革》。それはわれわれにとって、天空をさまよう擬人化された抽象概念ではない。《第二概念》の後を追う怪獣キマイラではないのだ。これらの広汎な運動をより充分に判断するには、われわれは運動の担い手たちの意識そのもののなかに身を置かねばならない。さて、その意識は、現在のわれわれの意識と同様であったかどうか? 「人間の本質は時空を超えて同一である」。私も知っている。昔からの繰り返し文句は百も承知である。が、しかし、それは単なる公理にすぎないし、敢えてつけ加えるならば、歴史家にとっては何らの効能も持たぬ公理にすぎない。歴史家にとっては(地理学者にとってと同じく)、人間一般が問題ではなく、さまざまな人間が問題となる。その人間たち個々の独自性、識別の手掛かりとなる特徴、彼らをわれわれと区別する一切のものを、歴史家は努力の限りを尽くして捕捉しようと目指すのである。実際彼らは、われわれと同じような仕方で生きていたわけではないし、感じていたわけでも、行動していたわけでもないのだ。(p4-5)