抵抗への招待

tu

『抵抗への招待』
 鵜飼哲 みすず書房 1997


 ラカン以降、精神分析はようやく分析家の欲望を問題にしうるようになった。この問題が精神分析の制度の問題と深く関わっていることは周知の通りである。それと同一ではないにせよ、実り豊かな対比が可能なある必然性に従って、翻訳という制度をめぐる考察は、おそかれはやかれ翻訳者の欲望を問題とせざるをえないだろう。ベルマンやデリダの論考ははっきりそうしたベクトルを示しているように思われる。「生産装置を―可能性に応じて―変革することなしにそれに供給することは、たとえこの装置にゆだねられる素材が革命的性質をもつようにみえる場合でもはなはだ批判されるべき余地がある」―ベンヤミンのこの提言をそろそろ本気で考えるべき時期にきているのではなかろうか。(p142)