恋する虜

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 『恋する虜―パレスチナへの旅
 ジャン・ジュネ 鵜飼哲・海老坂武訳 人文書院 1994


 私の人生を構成することになった様々な偶然は、私をこの世界にほうりだしてくれたはいいが、およそそれを変更することを許さぬ質のものだったから、私はこの世界を観察し、解読したのち記述することでよしとしよう。そして私の人生の各節は、エクリチュールというあの軽労働に、言葉を選択し抹消し、個々の挿話を逆さまに読むだけのことになろう。それも超越的な目に映ずるような真実の挿話ではなく、この私が自分で挿話を選択し、解釈し、並べ方を決めるのである。古文書管理人でも歴史家でも、それに類した何者でもない私だが、パレスチナ人たちの物語を歌い上げるためにだけ自分の人生を語るとしよう。(p321)