私のための芸能野史

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『私のための芸能野史』
 小沢昭一 新潮社(新潮文庫) 昭和58


私が「クロウト」というのは、芸の巧拙や腕前や年期のことを言うのではなかった。それは被差別的な芸能者の血であり、「芸をやらざるを得ない」ことから居直って、「芸」を刃に「遊ぶ」芸人ぐらしのことである。そういう「芸人ぐらし」の「クロウト」たちから「シロウト」の私は、私の内部で差別された。私の慕う「クロウト」たちは、私の中で、私をあざ笑っている。そしていま、「クロウト」は消えつつある。しかも、「クロウト」は消えても芸能は残るだろう。「シロウト」の私は、もし芸人を続けるなら「芸しかやらざるを得ない芸人ぐらし」のカセを「シロウト」流にでも、自分にはめる道を考えねばなるまい。ホラホラ、そう力むことからして、もうずいぶん「シロウト」くさいではないか。(p297)