ザルツブルクの小枝

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『ザルツブルクの小枝―留学生の手記』
 大岡昇平 新潮社 昭和31


ギリシャは同じ野蛮でも、比較的新しい野蛮である。だれでも知つてゐるやうに、エヂプトではさらに三千年前から人間が野蛮から脱出しつつあつた。それらの文明のギリシャへの影響については、書籍の山がある。 しかし我々は大體トインビイに従つて、エヂプトを、ギリシャから出て近代に到る、つまり現在我々が浸つてゐる文明と、異質のものと考へておく方が便利である。ギリシャは現在を描いたが、エヂプトは永遠を表したと感傷家はいふ。しかし永遠なんてものを人間が信じられるだらうか。(p156)