手裏剣の世界

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 『手裏剣の世界』
 白上一空軒 大陸書房 昭51


手裏剣を含めて、ものを投げて狩猟をしたり、敵を倒したりする器具を投擲武器と呼んでいる。人間がものを投げて獲物をとることを覚えたのは、遠く石器時代にさかのぼる。その名のとおり、最初の投擲武器は石であった。これは、どの民族にも共通していて、石を投げることが人間の本能ではないかとさえ思われるふしがある。
   君が瞳はつぶらにて  君が心は知りがたし
   君を離れて唯ひとり  月夜の海に石を投ぐ
これは、佐藤春夫の純情詩集の一節である。このようなロマンチックなムードの中でも、人間はむしょうに何かを投げずにはいられないという本能のあらわれを表現していると思われる。(p12-3)