天使と増殖

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『天使と増殖 Ding an sich―週間本36
 丹生谷貴志 朝日出版社 1985


まあともかく僕たちは「近代」の末あたりに生きている訳で、「近代」というのは大雑把に言えば「所有」が極限にまで来た時代と言える訳です。ところがこの近代の「所有」の回路には、「近代」というのはともあれキリスト教的西欧の産物と言える訳ですから、絶対的所有、所有者=「人間」=神がせり出していて、「所有」が本来孕んでいる可能性、というか、正確に言えば、誰が所有者で誰が被所有者なのか見分け難く転移し続けるカオス世界の回路が完全に脱落している。つまり、近代の「所有」は絶対的所有による「所有」の破壊という夢、欲望へ向けた「所有」な訳です。(p28)