
『古きものと新しきもの―ドン・キホーテからカフカへ』
マルト・ロベール 城山良彦他訳 法政大学出版局 1973
ドン・キホーテと同様、晩年に、一番ドン・キホーテ的でなく、おそらく直接役立つ規範を提供するにはもっとも適当なモデルに心ひかれて、カフカはホメーロスの思想に近づこうと試み、この課題に自分の最後の小説を当てるのである。現代の意識と文学とが同時に混迷するなかで、地味な人間の秩序のいつも模範的な再建者オデュッセウスを模倣しようと努めることの方が、途中であわれなドン・キホーテに変貌するかもしれない危険を冒して、アブラハムの壮大な犠牲を模写することよりも、おそらく価値があろう。カフカは誠実にオデュッセウスの模倣を試み、人間の現実とよく釣合いのとれたこの理想さえも不可能となった事実を確認する。(p285)