
『作者の肖像』
吉田健一 読売新聞社 昭和45年
一般に、人間は銘々が自分一人の世界に閉じ込められて集団生活をしていて、もっと下等な、或は現在までに解っている所では下等であることになっている動物の場合でも群をなして生活しているのが多いが、例えば野生の象などどうかすると一匹だけ、これは必ず雄がそれまでいた群にのけものにされて、仕方なしに群を離れて暮すことになることがある。象にも各自の世界というものがあることはまだ実証されていない。併しそうして群から離れた象は凶暴になるのが普通で、象狩りで最も恐れられているのもこの一匹だけでいる象であり、これは象にも自分一人でいる本能があるかどうかは別としてもう一方の、集団生活をする本能を働かせることが出来ない為だと説明されている。その時そういう象の精神の世界でどんなことが行われるのか、それを知る方法は今の所まだない。(p195)