クーデターの技術

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『クーデターの技術』
 クルツィオ・マラパルテ 手塚和彰・鈴木純訳 中央公論新社 2015

この本の運命はなんと奇妙なものであったことか。全体主義の政府のもとでは、《完全なる革命家のマニュアル》とみなされて発禁となり、自由で民主的な政府のもとでは、まさに暴力的に国家権力を奪取するためのマニュアルとしてブラック・リストにのせられた。自由で民主的な政府にとって、この本は国家防衛マニュアルどころではなかったのである。トロツキスト及びトロツキー自身からは、ファシズムだとして告発され、また何人かのコミュニストからはトロツキズムだといって糾弾された。何人かのコミュニストというのは、トロツキーの名がレーニンの名と混同されても、もっと極端に言えば、スターリンの名と混同されても、一向に意に介さない、という連中のことである。しかしながら、これ程までに議論をまきおこし、これ程までに相反する情熱をかきたてた本は稀であろう。また、相手が誰であれ、これ程までに万遍なく善用も悪用もされた本は稀であろう。(p39-40)