虚空 稲垣足穂

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『虚空 稲垣足穂』
 折目博子 六興出版 1980

稲垣足穂は、後年、自分の文学を評して、「オカズの無かった者の文学」と言っていた。オカズに当らなかった人間でなければ彼ほどの文学作品が書けないという意味なのか、生長期にオカズが作って貰えなかったひがみの文学という意味なのか、たぶんその両方の意味がある。(p18)

「オカズの無かった者の文学」に関しては、オカズはすべてのエネルギーの元で、オカズが粗末であった場合、人は謀反人か拗者かになってしまう、と足穂はいう。自分は母親が「オカズは何なりと有合せで」と言って何も作ってくれなかったので、身の置き所がなく、その文学も時空の外へはみ出してしまった。しかし、反面、倚松庵谷崎潤一郎を一方の旗がしらとする「オカズ食い文学」の弊はまぬがれたと、足穂は自賛もするのである。(p19)