カフカ?

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『カフカ?―ある形式の記述
 マルティン・ヴァルザー 城山良彦・田ノ岡弘子・加藤忠雄訳
 サンリオ出版 1973


カフカの作品では、内在する意味を現出させるために、主人公がおのれ自身をめざして遍歴するという必要はない。ここでは、意味はそもそも無意味であるという事実が、周囲の世界にたいする主人公の長い戦いを経て、はじめて暴露されるというのではない。むしろそうした意味合いは、最初の場面からすでに、そのつど明確な形で存在する。はじめからその全体性のうちに姿をあらわす階序の世界にしても、その世界を代表するだれかれにしても、それが質的に変化していくということはありえない。この創られた世界は、発展においてではなく、その各部分を反復することにおいて存在するのである。(p173)