『鳥の計画』
松浦寿輝 思潮社 1993
誰かは万人の裡に棲んでいる。誰か? と問おうとする者もいるしそうでない者もいるといった各人の主体的意志は、ここではまったく問題にならない。誰もの内部に誰かがいるのである。試みに、わたしたちが何人いるのか勘定してみるがいい。数は、いつでも一人だけ多すぎるだろう。いつでも一緒に遊んでいる仲の良い友達同士なのだから、そこに誰と誰と誰が何人いるということぐらいよくわかっているはずなのに、一人二人三人と数えてゆくと、奇怪なことになぜかいつでも一人だけ増えてしまっているのである。一人一人じっくり見てゆけばみなよく見知った親しい顔であり、余所者は誰も混ざっていないはずなのに、頭数を勘定してみるとどうしても余分の一人が出現してしまうのだ。n+1の不思議。誰かとは、この存在しない余計者のことなのである。(p128-9)