始まりの言葉

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『始まりの言葉』
 古井由吉 岩波書店 2007


言葉はおのずと「ことわり」を踏む。「ことわり」に支えられなくては、おそらく成り立たない。これは読む、書くの次元のことだけでなく、話す、そして思うの始まりにまで及ぶ。言葉は「ことわり」なり、とも言える。ところがわれわれの言葉の基づく「ことわり」が、近代の宿命として、分析分解の理であって、無限追求を内にすでにふくむとしたら、われわれの言語生活もまた、定まりもなきものを支えとして、微妙な、しばしば剣呑な意味解体への堕落をそのつど先送りしてしのいでいることになる。気力体力の掠れかけた時、あるいは責任のあまりに重い時には、どうしてこれが、この「言語」が成り立っているのだろうか、と滞りもなく述べながら内心、頭を抱え込む。(p85-6)