
『笑の研究―日本文学の洒落性と滑稽の発達』
麻生磯次 東京堂 1947
一般的にいへば、我が國民性は可笑味を深く掘り下げるにしては、あまりに怜悧であり、軽快であり、率直であつたといへるであらう。然し我が國民の性情には、快活楽天的な一面と、温和で内氣な他面が育まれてゐた。時代によつては、自己制御を強ひられた結果、卑屈狡猾な性情も與へられ、地域や環境に應じて率直平明な人々の間に、鈍重陰鬱な者も混在してゐたのである。時代的な陰翳は人々の行動や言語を抑制したのであるが、その作用は必ずしも可笑味の發達を阻害したわけではなく、却つてその間に精神的な苦悩を體驗することによつて嚴粛鈍重な氣持にもなり、可笑味に一段と深さを加へることにもなつたのである。(p128-9)