私の作家評伝

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『私の作家評伝』
 小島信夫 潮出版社 昭和60年


 一人の文学者を書き終えたとき、ようやく知己が一人ふえた感じがした。やがてその人と別れて別の人とつきあわねばならない。それは浮気するようで、つらいことでもあった。こいねがわくは、一人一人の文学者と、もう少しゆっくりとつきあい、遊びたいと思った。
 とはいえ、次第に私は、この仕事を、できることなら生涯つづけよう。またもっと、もっと過去の文学者や文学にさかのぼり、また日本の私たちに影響をあたえた外国の文学者にも手をのばそう。文学者だけでなく思想家にも、と大それた夢をみるようになった。そうしてなるべくそうできるように、私自身を自由にするようにつとめることにもした。(p771)