溝口健二著作集

mt

『溝口健二著作集』
 溝口健二 佐相勉編 キネマ旬報社 2013

 ―大体に、我々の映画と云うのは、階級闘争を描くか、しからざれば男女争闘の二手しかありませんが、現在の状勢じゃ前者の駄目な事はわかっている。で、男女争闘を表面に持って来て、面白く見てもらっているうちに、何か摑んでもらえたらいゝと思っているんですが……。それでも『浪華悲歌』は、三四ヶ所カットされました。五十鈴が失職している父親と口論する言葉や、男とのベッドのあたりなどが、これは仕方ないでしょう。
 「浪華悲歌」で、山田五十鈴が「よう云わんわ」と言う。大阪の人は、この言葉を、実に何でもなく、言わば真実味を持ってシャべる。が、聞く方は、何か、諧謔のある言葉の様に受取る。幾度も、感じが出なくて、NGを出したが、この時も、言葉の扱いと云うのはむずかしいもんだとしみじみ思いました。(p102-3)