映画を見に行く普通の男

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 『映画を見に行く普通の男―映画の夜と戦争
 ジャン・ルイ・シェフェール 丹生谷貴志訳 現代思潮新社 2012

―で、君はこの本に「普通の男 I’homme ordinaire」、映画を見に行く、或いは映画館に座る「普通の者」という題名をつけたのだけれども?
―うん、それは文字通り僕ら皆そうであるところの者、というつもりなんだけれども。そうだな、快楽のために見る対象を選ぶ者ではなくて、見知る対象すべてが快楽の対象であるような者のこと……つまり、それが映画を見る者、映画の観客というものじゃないのだろうか、そういう意味なんだ。
―そのことのためだけに映画に通うというわけかい?
―僕にもわからないんだよ! いや、どう言えばいいのか巧く言えないのだけれど自分ではこんな風だと、そう、こんな具合に違いないと思ってきたのだ。つまりね、僕は映画館に映画を見に行くのではなくて、僕らの”幼時”ジッと見つめていたはずの世界とその時間を見つけに行くのだ、と。(p334)