新編 現代の君主

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『新編 現代の君主』
 アントニオ・グラムシ 上村忠男訳 青木書店 1994


マキャヴェッリの『君主論』は、ソレルのいう「神話」の歴史的見本のひとつとして研究されてよいだろう。それは、あるひとつの政治的イデオロギーが、冷たい空想物語でもなければ、学理的な推論でもなく、ばらばらに分散してしまっている人民にはたらきかけて、集合的意志をよびおこし、組織するための、具体的な想像力の作品というかたちをとって提示されている歴史的見本のひとつなのである。『君主論』が空想としての性格をおびているのは、当の「君主」が歴史の現実のうちには存在せず、また、イタリア人民の前に直接客観的にみてとることができるような性格をそなえて提出されることもなくて、たんなる学理上の抽象物であったこと、理想的な首領ないし統率者のシンボルであったことによっている。(p60-1)