
『変化』
吉田健一 青土社 1977
一人の人間が常に変化と付き合つてゐるのであるからその一生が長いものにも思へる。或は寧ろ一生の終りといふのは変化の意識も含めて人間がなすべきこと、なしてゐることの一切を続ける必要がなくなる時でいつ来るとも解らないその休息の瞬間に今から期待を掛けた所で我々は何ものからも自由になるものでない。又それを望むこともないので我々の意識が正常に働く限りではそれは充実し、これも停滞することがなくてその対象になる変化はそれが静寂の形を取つてもその静寂に我々を満すものがある。それ以外に生きるといふことに意味があるだらうか。これが続けられて我々は少しづつ終りに近づき、その味を知つてかうして我々は階段を降りて行く。(p214-5)