ベンヤミンの使命

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『ベンヤミンの使命』
 三原弟平 河出書房新社 1995


世の移ろいにたいし、ものごとの流れにたいし、ベンヤミンが最後に立てた処方箋が〈静止状態の弁証法〉というものだったのだろう。少なくともこれはアレゴリーを採るのでもエーポスを採るのでもなく、アレゴリーとエーポスの統合でも宥和でもない。むしろ分裂は分裂のままに、ベンヤミンは橋のように宙にかかっているのだ。そもそも人間の生とは静止状態の弁証法としてある矛盾態である。ベンヤミンはそれをここでは橋と言わず、岩と言う。この岩が分ける水の流れが、一つはアレゴリーという、一つはエーポスという波になっても、波に未練はのこすなというわけであろうか。(p277)