ブレヒト・ノート

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『ブレヒト・ノート』
 野村修 晶文社 1969


かれはディスカッションを好んでいた―というより、友人たちの証言によると、それを空気のように必要としていた。かれにとっては友人の訪れは、仕事のさなかでも邪魔ではなく、作品をよりよくするためのチャンスだった。そういえば、中断は、かれの意識的な技法でもある。中断は、感情移入を阻み、筋肉のこわばりを取り去って思考を可能にし、ルーティンのなかでは気づかれぬ意味に、しばしばひとを注目させるからだ。ふたりの人間が互いに相手を中断しあいながら、共同の柔軟な思考を展開させてゆくプロセスは、かれの『亡命者の対話』に、とくに生き生きとうつしだされている。(p25)