フランツ・カフカのこと

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『フランツ・カフカのこと』
 本野亨一 近代文芸社 1982


カフカはいたずらっぽいユーモアが好きであったことはどの友人も伝えていて、作品などでも自分の名前と登場人物の名前の語呂をあわせたりしてたのしむところがあり、だから、からだの動きの全体にも意識的・無意識的なユーモアが漂っているのはたしかなので、これを、絶望的な深淵が顔をのぞかせている、などと一本調子できめつけるのは深淵趣味になってしまうのだが、しかしここにはまた、カフカの肩すかしがあって、ユーモアと云っても、心暖まるホーム・ドラマ的ユーモアとはおそろしく異質であり、ユーモアのぬるま湯に浸っていると、完全に取り残されてしまうこともたしかなのだ。(p37-8)