キルケゴール

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『キルケゴール―美的なものの構築』
 T.W.アドルノ 山本泰生訳 みすず書房 1998


キルケゴールは、ヘーゲルを飽くことなく嘲笑した。彼にはヘーゲルが、眼の前の現存在のためのどんな責任ある発言も、体系の完結する空想的なその日まで延期してしまうと思えたのである。この点で、しかし、彼はまさに、おそらく自分でも思っていたよりも、ずっとヘーゲルに似ている。なぜなら、そのように全体の完成を延期したことによってこそ、個々の現在は―そしてもちろん、過去はそれ以上に―キルケゴールの反復が捉えようと空しい努力をした、あの具体的な豊かさをかちえたのだから。(p206-7)