パルメニデス

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『パルメニデス』
 井上忠 青土社 2004

 パルメニデスは完璧に完成された玻璃宮(球)殿である。それに比べれば、プラトンは、造りかけては放置された硝子の塔の数多な残骸とも見え、アリストテレスは広大な野外運動場のようにも感じられる。パルメニデスは、「探究」の言語としての、〈こころ〉言語の確立者であった。かれは、〈こころ〉言語の典型である詩、とくに叙事詩の言語を、徹底して改鋳し、「探究」の言語を創出した。それはたんに哲学探究のみではなく、あらゆる論理・理論・科学・思想言語の原型となって今日までわれわれを拘束している。われわれがなんらか理論めいた思考・発言をするときは、不知不織のうちにいつもパルメニデスの呪縛にかかっている、と言っても過言ではない。どんなに科学が瞠目のシンポを示し、思想・宗教が鬼面人を驚かす新奇な構築をしても、結局はそれらすべてがパルメニデスの創建した〈こころ〉言語の掌上で踊っていることを看破すれば、科学の変貌、思想・宗教の閉塞に対するわれわれの対処方式にも、また別の方途が披ける希望があろう。(p5)