ウサギの本

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『ウサギの本』
 松浦寿輝・文 米田民穂・絵 新書館 1996


あのころの私は、ただ忙しいばかりの仕事が厭で厭でたまらなかったうえに恋愛にもしくじり、もう半分ほどは自暴自棄になって生きていたように思います。自分が何をやりたいのかも世の中がどういう仕組みで動いているのかもよく見えないまま、目先の些事に追いまくられて無我夢中で毎日を送っていたように思います。今になって考え直してみますと、私の安アパートの押入れの中に本当にウサギの古本屋があったのかどうか、自分でも疑わしくなってくることもあるのです。(p55)