〈かたり〉と〈作り〉

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『〈かたり〉と〈作り〉―臨床哲学の諸相
 木村敏・坂部恵監修 河合文化教育研究所 2009

ヒュームはデカルトを敬愛していた。既存の学問への懐疑やラ・フレーシへの逗留など、彼がデカルトに親近感を抱いていたのは推測にかたくない。しかしデカルトは骨の髄までスキゾイドであり、気質としては対極にいる。父方からは血の気の多い、そして母方から篤実な性格を受け継いだヒュームは、大胆であり、いささか無用心でもあった。とりわけ彼のお人よしぶりは筋金入りである。後年、彼は友人たちの度重なる忠告にもかかわらず、逮捕状の出されているルソーを保護し、ほどなく妄想の対象とされる。あるいはパリの社交界で、ブフレル伯爵夫人の寄せた好意を最後まで誤解して、取持ち役を依頼されるというピエロを演ずることになる。一見破天荒な生を歩んだようにみえるデカルトが、仮面のうらで周到な計算をしていたことと対照的である。(p283-4)