復興期の精神

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『復興期の精神』
 花田清輝 講談社文庫 昭49


『短論文』のプラトン風の愛は、やがて『倫理学』のホッブス的な自己保存慾に席を譲る。肉体を中心とする自己保存慾をもってすべてを割りきっていくということは、たしかに一応残酷にみえるではあろうが、所詮、それは自然主義的リアリズムの域を脱することはできないのではなかろうか。その残酷さは、外部の原因によって自由に決定されてゆく肉体、そうしてその肉体の影響によって、『倫理学』の言葉をひくならば、「恰も相い反する風にうごかされる海の波のごとく、自己の終局や運命をしらずに動揺する」我々の感情をながめるところからきており、実は我々の肉体の無力にたいする諦観によって裏づけられているのであり、その所謂自己保存慾なるものも、かくてついに、自然的必然性の異名にすぎないものとなるのだ。(p160-1)