存在・感情・政治

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『存在・感情・政治―スピノザへの政治心理学的接近
 河村厚 関西大学出版部 2013

 スピノザ自身は明言してはいないが、現実の国家共同体は、受動的要素と理性的要素の複雑な混成によってその時点での「共同性」を実現しており、国家内のそれらの要素の「構成比」も刻々と変化しているということだ。つまり、或る国家の成員全員が「理性の導き」に従って生きている「賢者(理性的人間)」であるとか、逆に国家の成員全員が「無知なる者(受動的人間)」であるという事態は、現実には考えられないのである。どの国家共同体も実際は、相互対立(不安定)という受動的要素と相互一致(安定)という理性的要素の相反する傾向をその中に共に内包していることになる。受動か能動かの二者択一的なカテゴリーに分類されることなく、様々な度合いの「共同性」をそれぞれの国家共同体はその内部にその時々に実現しているということである。(p82-3)