狼が来るぞ!

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『狼が来るぞ!』
 四方田犬彦 平凡社 1999


 昔どこかの座談で、深沢七郎が喋っていた言葉を思い出す。植物にはけっして気を許してはいけない。どんなに美しい花を咲かせるものでも、考えていることはただひとつ。周囲に実を撒いて子孫を増やし、空隙あらば世界全体をびっしりと自分たちの一族で仕切ってしまおうということだ。植物は放っておけばいくらでも増える。他の植物と共存など眼中になく、ひたすらエゴイズムであたり一面を埋め尽くそうということばかり考えている。深澤さんが話したのはだいたいこのような言葉だが、なるほど農場を経営し、一年中作物の出来しだいに気を配っている人だからいえる言葉だなあと、感心したおぼえがある。(p144)