エクソフォニー

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『エクソフォニー―母語の外へ出る旅
 多和田葉子 岩波書店 2003


たとえば、音が揚がったままなら、まだ文章は終わっていない、というような単純なメロディーの問題に加えて、意味の区切れ目もリズムで分かるようになる。主文には主文の、副文には副文のメロディーがある。一つの文章の中に、強くゆっくり発音する単語というのが必ずあり、それが意味の中心をなす。他の単語は、弱く早足に通り過ぎていく。つまり、文の構文は文のメロディーにある程度現れていて、それを音楽的に聞き取れれば、見取図をもらって大きな建物の中を歩くようなものだ。母語の外に出ることは、異質の音楽に身を任せることかもしれない。エクソフォニーとは、新しいシンフォニーに耳を傾けることだ。(p77)