イスラーム文化

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『イスラーム文化―その根柢にあるもの
 井筒俊彦 岩波文庫 1991

 日本人にとってイスラームはいままで、いわばまるであかの他人でした。ところがそのイスラームが歴史的現実としてわれわれに急に近づいてまいりました。譬えて言えば、見知らぬ他人がぬっと顔をわれわれの目の前に突きだしてきたとでもいうところでしょうか。現代の日本人にとって、中国文化や西欧文化は―そしてインド文化もある程度まで―見なれた隣人の文化であります。これに反してイスラームはわれわれにとって文字通り異邦人、隣人にはなりはしたものの、まことに妙な隣人の文化です。イスラームとはいったい何なのか、イスラーム教徒(ムスリム)と呼ばれる人たちは何をどう考えているのか、彼らはどういう状況で、何にどう反応するのか、イスラームという文化はいったいどんな本質構造をもっているのか、―それをわれわれは的確に把えなければならない。それがはっきり主体的に呑みこめないかぎり、イスラームを含む多元的国際社会なるものを、具体的な形で構想したり、云々したりすることはできないからであります。(p18-9)