哲学的冒険

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『哲学的冒険―形而上学へのイニシアシオン
 佐藤一郎 丸善 2002


 概念は、引き出された範囲のどの物にもあてはまり、そのすべてを包括します。いま話した命名、定義でも、一つの言葉が複数の経験と結合するけれども、それは一般的な概念による包括とは性質がまったくちがいます。自分の経験は絶対に他人の経験と同じものとして扱えません。そのように一つ一つちがう経験が、ちがいをもったまま一つの言葉で名ざされます。論理では、異なった多くのものが抽象や一般化を経ずに一つの同じものと完全に結びつくのは不可能と考えられますが、論理的矛盾を超えて言葉、普遍と経験、個とがもちうるこの結合が、私が示そうとしてきた形而上学のめざすことです。(p189)