黄金の女達

wk1

 『黄金の女達―私の作家遍歴Ⅰ
 小島信夫 潮出版社 1980

  現在の私どもは、はっきり信仰の対象をもっている人はともかくとして、そうでない人も何かを信じている。ただハッキリしないし、その対象がマルクス・レーニン主義であったり、民主主義であったり、体制であったり、その都度顔を出すくずれかかった伝統であったり、しきたりであったり、義理人情であったりする。美的感覚かもしれない。だが、一口でいえることは、私どもはどんなに信じたいと思っているかということである。いいかげんでいいと思っている人が不意に何かのきっかけで、本人も分らぬくらい何ごとかを信じていて、つきつけてくることがある。その内容が何であるか、私はここではわざというまい。早い話が、それぞれ考え方というものをもっていることが、何ごとかを信じているというそもそもの証拠みたいなものなのである。(p484)