近世哲学史点描

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 『近世哲学史点描―デカルトからスピノザへ
 松田克進 行路社 2011

 現代の認識論的全体論における一つの重要な論点は、信念体系が経験によって反証される場合、どの信念が間違っているのかは理論的に確定され得ず、改訂の仕方はプラグマティックな基準によって決まる、というものである。すなわちこの見地では、(いかに保守的な改訂であれ)信念体系の改訂可能性が明らかに認められているのである。それに対してスピノザは、例えばどの観念(命題)を公理にするかという細かい技術的な面については多少ともプラグマティックに考えていたようであるが、明証的観念の体系が本質的な改訂にさらされる、というような可能性を想定していたとは思えない。彼は「書簡七六」で述べるように、自らの明証的観念の体系(具体的には『エチカ』として展開される)が「真の哲学」であるとの考えを確固として維持していた。彼は、自らの形而上学体系が自然の真の有り方を再現するものであると考えていたのである。(p118-9)