映画小事典

eh

『映画小事典―エナジー小事典第六号・映画
 蓮實重彦・山田宏一・山根貞男 エッソ石油(株)広報部 1985

街道と宿場 時代劇において街道と宿場は、たんに交通のために必須であるばかりか、そこでドラマが起こり展開する場として重要である。たとえば街道をのみ舞台とする時代劇として、道中ものと呼ばれる一ジャンルさえある。股旅もの、仇討もののドラマも、街道と宿場だけを舞台にくりひろげられる。井上金太郎の『道中秘記』(’27)、それのリメークである内田吐夢の『血槍富士』(’55)は、宿場ドラマの典型といえる。また、工藤栄一の『十三人の刺客』(’63)は、一つの宿場全体を暗殺のための罠として用いた異色作である。時代劇づくりにとって、ロケーションのできる街道が近くにあることは不可欠で、京都が映画製作の一大拠点になったのも、それによる。しかし近年、そうした風景はなくなり、時代劇衰退の一因となった。各撮影所の宿場のオープンセットは、いまやテレビ時代劇用にのみ使われ、そこでのドラマに風景の広がりはほとんど見られない。(山根)(p48)