支配なき公共性

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『支配なき公共性―デリダ・灰・複数性
 梅木達郎 洛北出版 2005


 結局のところ、灰において問題となっているのはなにか。灰とはなにものかの名残や記号ではなく、なにかが取り返しようもなく失われてしまったことの痕跡である。失わないために、保持するために、すべてを燃やすこと、あるいは同じことだが、失ってしまうために保持し、手元にとどめおこうとすること、そしてさらに、この喪失と保持のたえざる反転の操作と計算(それは弁証法の運動そのものだ)それ自体を燃やし尽くし、無化すること―そうしてなにもかも失い、なにも残さず、すべてを捨てて、ありえないようなチャンスに託すこと―これが、灰において賭けられていることである。(p94-5)