ヴァルター・ベンヤミン

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『ヴァルター・ベンヤミン』
 テオドール・W.・アドルノ 河出書房新社 1996


たとえベンヤミン哲学の観念についてであれ、わずかな言葉でそれを伝えることは不可能である。ベンヤミン哲学は排他性を通じて、今日に至るまで保護されていたのである。彼のもっとも内密な関心であろうと、それはまた万人の関心であるから、ベンヤミン哲学は時とともに展開して行くことであろう。あたかも日蝕のなかで世界が自分の前に横たわるかのように、死者の視点から世界を眺めた視線は、だが失われてしまった。救済された者の眼差しにならそう映ったかもしれないように、つまり世界をあるがままに、眺めた視線である。その死の憂いをこめた視線は冷え切った生のなかで、汲みつくされることなくありとあらゆるぬくもりと希望とを贈ってくれたのだ。(p10-11)