ヒュームの一般的観点

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『ヒュームの一般的観点―人間に固有の自然と道徳
 矢嶋直規 勁草書房 2012

ヒュームの知識論では一般的観点がどのような位置づけを持つかを次のように考えることができる。哲学を学んだことのない一般人(vulgar)は世界が感覚によって直接認識されると信じている。しかしそうした素朴実在論は理性を説得することはできない。世界の認識は感覚によって直接与えられるものではない。他方、一般人の認識が正当化されないことを知った哲学者は、世界を理性によって理解しようとする。しかし理性は、感覚の認識を疑う力を持つが、その懐疑は自分自身にも向けられるため、独力で自らが標榜する確実な世界像を提示することができない。ヒュームの一般的観点とは、そうしたジレンマにもかかわらず、私たちに自然に与えられる世界認識の視点を意味すると考えられる。一般的観点がどのようにして形成されるのか、そしてそれはどのような世界理解と道徳規範を私たちにもたらすのかを解明することが、ヒュームの哲学であると言える。(p23)