ぼくの伯父さん

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『ぼくの伯父さん』
 長谷川四郎 青土社 昭和46


 今、診療所の宿直室にいて、壁のむこうでカリカリカリと小動物が何かをかじっているような音をきいた。あるいは空耳だったかも知れない。それっきり聞こえなくなったが、五年前に船に乗ったことを思い出した。
 ガリヴァー。大航海。 小人国。 フーイヌムの国。 これらの国について報告するためには、とらえられて宮廷の奥へつれていかれたり、馬の下男にされなくてはならなかった。
 私はただ物の表面をちょっとこすってきただけである。(p157)