マルクスと贋金づくりたち

md

『マルクスと贋金づくりたち―貨幣の価値を変えよ〈理論篇〉』
 大黒弘慈 岩波書店 2016


 貨幣間の正統争い、都市国家間の正統争いが、真贋の階層秩序を据え置くことからもたらされる必然的帰結であったように、境界性もまたノモスを大前提とするかぎり価値の空位状態に耐えきれずに、やがて上下の価値転倒を帰結するのみならず、それは絶えざる価値転倒をもたらすことになるだろう。そのような変動恒なきノミスマ間のシーソーゲームを終息させるものこそ、ノモスそれ自体に対置されたフュシスであり、この超越性がディオゲネスの言動を支える。そういって言い過ぎであれば、ノモスとフュシスのあいだに見出された境界性こそ、諸々の境界性を凌駕する決定的な境界性としてディオゲネスによって見出されたのである。(p177)