書物

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 『書物 その起源と発達の物語』
 M.イーリン 玉城肇訳 弘文荘 昭9


 昔し、一番初めの本を探し求めて世界中の図書館を全部歩き廻った馬鹿な男が本当にあつたそうだ。その男は、年を経て黄色くなり、黴の生えた、たくさんな本の山の間を幾日も幾日も探した。彼の衣服と靴との上には、恰度ごみつぽい街道を何哩も旅行した後のやうに、ほこりが厚くかぶさつた。結局この男は、本棚にたてかけてある高い梯子から落ちて、死んだのだつた。だが、もし彼がそれより百年多く生き長らへたとても、決して探してゐたものが見つからなかつたらう。世界最初の本は、その男が生れる何千年も前に、朽ち果ててしまつたのである。(p1-2)