パレスチナとは何か

pe

 『パレスチナとは何か』
 E・W・サイード ジャン・モア=写真 岩波書店 1995

 亡命。イスラエルとパレスチナの知識人の間で、和解を議事として高く掲げた「対話」を言わば呼び物とする会議が、先頃、アメリカで開かれた際、ひとりの男性が聴衆の中から立ち上がって、こういう問いを提起した。「私はパレスチナ人で農業に従事しております。私の手を見てください。一九四八年に私は追い出されてレバノンに行きました。するとまた追い立てられてアフリカに行きました。その次の行き先はヨーロッパでした。それからここアメリカに来たわけです。今日[と言いつつ彼は封筒を取り出す]、アメリカから退去せよという文書を受け取りました。壇上の先生方のどなたでもどうかお答えください。私は今度は、どこに行ったらよいのでしょうか」。誰も何とも答えようがなかった。その農夫の存在が困惑そのものだったのであり、その後、彼が実際にどうしたか、何が彼に起こったかについて、私は何も知らない。私としても遺憾なことである。(p43)