
『スペインを追われたユダヤ人―マラーノの足跡を訪ねて』
小岸昭 筑摩書房 1996
ゲーテが、彼自身の思索全体を満たすほどの「限りなく無私の精神」を見出した書物『エチカ』は、じつはスピノザ自身への絶え間ない迫害や中傷と、こうした新しい群衆の狂気というデモーニッシュなものを背景に書き進められたものだった。かつて外科医ファン・ローンに言ったように、手仕事をすること、愉快に暮らすこと、そして哲学することをひたすら望んでいたスピノザは、間もなく事件の衝撃から立ち直って、レンズ磨きと主著に向かったのである。(p222)