ムジール

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『ムジール ロ・ロ・ロ伝記叢書
 ヴィルフリート・ベルグハーン 田島範男・伊藤寛訳 理想社 1974

 ナチのテロルとそれ以前の思想状況とのあいだには、精神的な意味合いで、それほど大した相違もみられない。「独裁者の出現する以前久しく、われわれの時代は、精神の独裁者崇拝を培ってきた。ゲオルゲがその一例である。あるいは、クラウスおよびフロイト、アドラーとユングなどもそうである。さらにはクラーゲスとかハイデッガーもそれに加えてよい。この連中に共通しているのは、支配し統率せんとする、つまり救世主たらんとする欲求といってよいだろう。」(T398) こうしたこともかれの政治的情熱に水をさすのである。のちに亡命中のかれは、みずからの態度をこんな具合に定式化している。「わたしの闘っているのは、ファシズム反対ではなくて、民主主義の内部にあって民主主義の将来のためにである。したがってこれはまた民主主義反対ということになる。」(T496)(p165)