日本文化への一視角

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 『日本文化への一視角―思想史的考察
 生松敬三 未来社 1975


 客観的公正を期した円満な常識などというものは、多くの場合なんの役にも立たない。結局のところ万人が納得する完璧に客観的な見解というようなものはないので、各人それぞれ自分の置かれた場所から、自分なりのパースペクティヴで世界を観望するほかはないのだ。だから、肝心なことは、それが偏見だと心得たうえで、確固として清新な偏見を持することであろう。自分の意見こそ唯一の客観的真理の表明であると信じて疑わない「善人」ほど、世に始末の悪いものはない。所詮われわれは偏見にみちみちた「悪人」でしかないことを心底まで自覚すべきなのである。(p338-9)